マーク・カッツが1966年に提唱した
「太鼓のかたちが聞こえますか?」
という問題について考えている。
考えていると言っても、この問題には
すでに様々な回答が知られている。
とても印象に残る問いかけで、多くの人が研究してきた。
数学の研究として、(虎視眈々と目は凝らしているが)新しい貢献を見いだすのは容易ではない。
ただ、とても面白い。
素敵な問いかけだ。
数学の言葉に直すと
「ラプラシアンの固有値のスペクトラムは幾何を決定するか?」
となる。
これだと、もちろん数学的には面白いと感じるが、なかなか心には残らない。
ラプラシアンの固有値のスペクトラムはフーリエ変換により、音に対応する。
かたちの発する音を聞いて、かたちが見えるか?という問いに言い直したのはとても偉いなと思う。
問題を理解するのによい、簡単なモデルのことを
よく Toy Model という。おもちゃで遊ぶのだ。
今日は、「かたちのおと」を理解するのに良い
おもちゃについての、おはなし。
考えるのは、直線の上の有限個の点だけ。
例えば、$\{0,1,3\}$という点を考える。
外側を忘れて、$0$を$3$の間だけ考える。
これを、長さ$3$の弦だと思う。ギターなどの弦。
太さや素材などをひとつ、これと決める。
はじく。びーん。
弾いた時の音を決めるのは何か?
長さだ。
音楽でも理科でもきっと習う。
長さが音を決める。
逆に、("無限"に耳のいい人ならば)音を聞けば、長さがわかる。
だから、「かたちのおと」の話は、ここでは、かたちの長さの話になる。
$\{0,1,3\}$の長さってなんだ。
点と、点との距離だ。
$0$と$1$の距離は$1$。$1$と$3$の距離は$2$。$0$と$3$の距離は$3$。
$\{0,1,3\}$の長さを集めると$\{1,2,3\}$となる。
長さ$1$の弦、$2$の弦、$3$の弦。みんな違う音をだす。
だから、$\{0,1,3\}$のどこか二つを押さえて、
奏でることのできる音の集合が$\{1,2,3\}$という長さの集合で決まる。
この、長さの集合$\{1,2,3\}$から$\{0,1,3\}$という点の配置を復元できるか?
カッツの問題のおもちゃは、こんな問題。
$3$点だと、長さの集合から点配置の復元が簡単にできる。
もちろん、平行移動、それと反転は長さの集合を変えないから
それをのぞいて、ただ一つに決まる。
実は、$4$点でも、$5$点でもそう。
$5$点までの配置は、音で決まる。
それが、$6$点だと成り立たなくなる。
全く同じ音をだす、違うかたちが見つかる。
違うかたちの太鼓を叩いて、同じ音がでたら不思議だ。
こんなことを学んでから、音を聞くのが楽しい。
色々な音がある。大概、みんな、かたちが違う。
兄弟、姉妹、親子。
声が、言い方が、すごく似ていたりすると、驚いたり、楽しかったりする。
かたちも似ていたり、ぜんぜん違ったり。
音のかたち。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしく、お願いします。
ちゅー、ちゅー。
ことしのおと。