「幾何」とはきっちりかっちり決まった"かたち"です。
トポロジーは形の「幾何」、長さ、角度、面積などの量的な情報、を捨てて
残ったものをしらべよう。
そんな考え方でした (昔の記事、「1+1と2」もよければ)。
そうやって、たくさんの情報を捨ててもなお、残ったなにかがあるならば
それはきっと大切だろう。
数学ではいくらでも高い次元の空間を考えることができます。
でも、不思議なことに"低次元"とよばれる
2次元、3次元の空間のトポロジーが「面白い」。
(「 次元の低い話」はトポロジーでは面白い話です)
その面白さのうち、ぼくが好きな理由が「幾何化」です。
トポロジーは幾何を忘れていた。
だけれども、低次元のトポロジーは自分に合った、
とてもきれいな「幾何」を決めるのです。
例えば球面(ボールの表面です)。
これは2次元の空間。
トポロジーではいくらでも"ぐにゃぐにゃ"変形して良いのですが、
球面が好きなのは、一番最初に思い浮かぶ「まるい」幾何。
他にいかようにでも幾何をいれることができますが
"ほおっておくと"まるくなるのが球面です。
空間のきらいな幾何を入れると、「空間がかわいそう」という先生もいます。
2次元の空間はみな、好きな幾何を持っている、
つまり「幾何化」できるということが古くから知られていました。
そして、「幾何化」はサーストンにより3次元でもできると予想され
ペレルマンによって証明されました。
ポアンカレ予想という100年以上未解決だった予想とともに。
3次元の空間も「好きな幾何」を持っているということが証明されたのです。
その中で、とても自然で、きれいな幾何になることが知られているのが、
3次元の双曲幾何、「またまたまがる」幾何です。
この幾何はなんと、トポロジーでただ一つに決まります。
トポロジーが幾何を決めるのです。
つまり、
「幾何を忘れて」形の本質にせまったトポロジーを、
「幾何を使って」研究できるのです。
一度忘れて、辿り着いた先に、そっときれいな形で、「幾何」がいるのです。
双曲幾何はとても強力で、見つけることができれば、空間の様々な性質がわかります。
では、どうやって見つけるのか?
「存在すること」の証明と、実際に見つけることには大きな差があります。
実は、それをやってくれるプログラムがあります。
SnapPea という名前のそのプログラムは近似計算で双曲幾何を計算できます。
とても面白く、様々な研究者がそれを使ってきました。
SnapPea でたくさんの双曲幾何を"もちそうに"みえる面白そうな空間が見つかりました。
ただ、数学者というのは面倒くさい生き物でもあって、
「近似計算」では証明とはみなさないのです。
じゃあどうするか?
そう、ぼくの博士論文の結果を使うのです!(笑)
精度保証計算というものをつかって
SnapPea を、数学者も「証明している」と、
まぁ納得してもらえる形にしたのが、ぼくの博士論文です。
「SnapPea の弱点を君が補ってくれた」
SnapPea の開発者にあって、気分がのって長々書いてしまいました。
トポロジーと幾何は互いに補い合って、低次元の空間を豊かにしているのです。
たくさんの共同研究者の協力もあって、ちょっといいもの作れましたという話でした。