数学の世界では依然として、師匠、弟子、という言葉遣いをします。
大学院でお世話になる先生を師匠、学生を弟子と呼ぶのです。
研究は冒険に似ています。
どの方向に進むのか。
どうやって困難を乗り越えるのか。
「センス」が問われるのです。
ぼくの師匠は事ある毎に
「筋が良い」「筋が悪い」
と数学を見ながら言いました。
難しいのは、それが"どうして”筋が良い/悪いのか、教えてもらえないのです。
今となって思うと、それは言葉にするのが難しいのです。
困ったぼくは一つの経験を頼りました。
囲碁も同様に「筋の良さ」が非常に大事です。
独学で囲碁を勉強した際に、効果があったものの一つが
同じ棋士の棋譜をひたすら並べる。
棋譜というのは戦いの記録。
大事な事は、一人の棋士を選び、その棋士の棋譜だけをひたすら並べること。
すると、見えてくるのです。
その棋士が何を信じて、何を頼りに次の一手を選んでいるのか。
ひとり、またひとり。
それを繰り返しました。
自分と感覚が合う棋士の棋譜を並べると、自然と"強く"なりました。
自分と感覚が合わない棋士の棋譜をならべると、不思議と"勝てなく"なりました。
そして、それでも。
そうやって得た、感覚はひとりひとり、
違うところもあれば、同じところもあります。
きっと多くのひとが共有している部分は自分も大切にするべきところ。
ひとそれぞれ異なる部分は"棋風"とよばれる。
自分がしっくりくるものを選べば良いのです。
ぼくは"同じこと"を数学でもやりました。
ひとを選んで、ひたすら同じ著者の論文を読みました。
もちろん他人にはなれません。
何人かを選んで、繰り返して、そのなかで得たものから
自分で"選ぶ"のが大事なんだろうと思います。
それがきっと自分だけの「数学の見方」、
羅針盤になるのです。
ようやく少しだけ"羅針盤"が見えてきたので大事に育てていきたいと思っています。