2017年6月24日土曜日

からだのこえ

ある意味で、研究生活はスポーツだと思っています。
試合開始の笛は産声、終了は、終わったとき。

その中で、体調を管理するのは大事なこと。
今日は自己流ですが、体調について気づいたことを。

体調不良、倦怠感、疲労感には大きく分けて要因が
内にある場合
外にある場合
のふた通りがあると思います。

内、は筋肉、内臓、または心の調子が実際に悪いとき
外、は季節の変わり目、軽いストレスなどで体が反応しているとき

難しいのは内か、外かで対処法が大きく異なる
もしくは、ほぼ正反対であろうこと。

内、の場合は休養が必要。
エネルギーを節約する方向。
外、の場合は逆に気合をいれて自分を「正しいリズム」に戻す。
エネルギーをガンガン使うのが有効かと思います。

問題は「間違える」とどちらの場合もかなり悪化するということ。

原因が外なのに、エネルギーを抑えて受け身になっていると
外的要因はどんどん体にダメージを与え続けて、
じきに内まで侵食してくる。

もっと悪いのは、原因が内のときに無理に頑張ること。
そうすると休養が必要なほど弱った体、心は壊れます。

見極めは難しく、日々自分の調子と向き合うことが大切だなと。

なんだか数日体調が悪くて、休んでも一向によくならず
なるほどこれは梅雨のせいか!
と気合を入れたら元気になりました。

からだのこえ、を正しく聞くのは難しいですね。

2017年6月17日土曜日

どっぷりと

数学の世界では依然として、師匠、弟子、という言葉遣いをします。
大学院でお世話になる先生を師匠、学生を弟子と呼ぶのです。

研究は冒険に似ています。

どの方向に進むのか。
どうやって困難を乗り越えるのか。

「センス」が問われるのです。
ぼくの師匠は事ある毎に
「筋が良い」「筋が悪い」
と数学を見ながら言いました。

難しいのは、それが"どうして”筋が良い/悪いのか、教えてもらえないのです。
今となって思うと、それは言葉にするのが難しいのです。

困ったぼくは一つの経験を頼りました。

囲碁も同様に「筋の良さ」が非常に大事です。
独学で囲碁を勉強した際に、効果があったものの一つが

同じ棋士の棋譜をひたすら並べる。

棋譜というのは戦いの記録。
大事な事は、一人の棋士を選び、その棋士の棋譜だけをひたすら並べること。
すると、見えてくるのです。
その棋士が何を信じて、何を頼りに次の一手を選んでいるのか。

ひとり、またひとり。
それを繰り返しました。

自分と感覚が合う棋士の棋譜を並べると、自然と"強く"なりました。
自分と感覚が合わない棋士の棋譜をならべると、不思議と"勝てなく"なりました。

そして、それでも。
そうやって得た、感覚はひとりひとり、
違うところもあれば、同じところもあります。

きっと多くのひとが共有している部分は自分も大切にするべきところ。
ひとそれぞれ異なる部分は"棋風"とよばれる。
自分がしっくりくるものを選べば良いのです。


ぼくは"同じこと"を数学でもやりました。
ひとを選んで、ひたすら同じ著者の論文を読みました。

もちろん他人にはなれません。
何人かを選んで、繰り返して、そのなかで得たものから
自分で"選ぶ"のが大事なんだろうと思います。

それがきっと自分だけの「数学の見方」、
羅針盤になるのです。


ようやく少しだけ"羅針盤"が見えてきたので大事に育てていきたいと思っています。

2017年6月10日土曜日

忘れた幾何

「幾何」とはきっちりかっちり決まった"かたち"です。
トポロジーは形の「幾何」、長さ、角度、面積などの量的な情報、を捨てて
 残ったものをしらべよう。
 そんな考え方でした (昔の記事、「1+1と2」もよければ)。

 そうやって、たくさんの情報を捨ててもなお、残ったなにかがあるならば
 それはきっと大切だろう。

 数学ではいくらでも高い次元の空間を考えることができます。
 でも、不思議なことに"低次元"とよばれる
 2次元、3次元の空間のトポロジーが「面白い」。
(「 次元の低い話」はトポロジーでは面白い話です)

その面白さのうち、ぼくが好きな理由が「幾何化」です。
トポロジーは幾何を忘れていた。
だけれども、低次元のトポロジーは自分に合った、
とてもきれいな「幾何」を決めるのです。

例えば球面(ボールの表面です)。
これは2次元の空間。
トポロジーではいくらでも"ぐにゃぐにゃ"変形して良いのですが、
球面が好きなのは、一番最初に思い浮かぶ「まるい」幾何。

他にいかようにでも幾何をいれることができますが
"ほおっておくと"まるくなるのが球面です。
空間のきらいな幾何を入れると、「空間がかわいそう」という先生もいます。

2次元の空間はみな、好きな幾何を持っている、
つまり「幾何化」できるということが古くから知られていました。

そして、「幾何化」はサーストンにより3次元でもできると予想され
ペレルマンによって証明されました。
ポアンカレ予想という100年以上未解決だった予想とともに。

3次元の空間も「好きな幾何」を持っているということが証明されたのです。
その中で、とても自然で、きれいな幾何になることが知られているのが、
3次元の双曲幾何、「またまたまがる」幾何です。

この幾何はなんと、トポロジーでただ一つに決まります。
トポロジーが幾何を決めるのです。
つまり、
「幾何を忘れて」形の本質にせまったトポロジーを、
「幾何を使って」研究できるのです。

一度忘れて、辿り着いた先に、そっときれいな形で、「幾何」がいるのです。
双曲幾何はとても強力で、見つけることができれば、空間の様々な性質がわかります。

では、どうやって見つけるのか?
「存在すること」の証明と、実際に見つけることには大きな差があります。

実は、それをやってくれるプログラムがあります。
 SnapPea という名前のそのプログラムは近似計算で双曲幾何を計算できます。
とても面白く、様々な研究者がそれを使ってきました。
SnapPea でたくさんの双曲幾何を"もちそうに"みえる面白そうな空間が見つかりました。

ただ、数学者というのは面倒くさい生き物でもあって、
「近似計算」では証明とはみなさないのです。

じゃあどうするか?
そう、ぼくの博士論文の結果を使うのです!(笑)

精度保証計算というものをつかって
SnapPea を、数学者も「証明している」と、
まぁ納得してもらえる形にしたのが、ぼくの博士論文です。

「SnapPea の弱点を君が補ってくれた」

SnapPea の開発者にあって、気分がのって長々書いてしまいました。
トポロジーと幾何は互いに補い合って、低次元の空間を豊かにしているのです。
たくさんの共同研究者の協力もあって、ちょっといいもの作れましたという話でした。

2017年6月3日土曜日

AI

ぼくは工学部に入り、その後大学院から数学をやるという
少し変わった道を通っています。

工学部に入った理由のひとつが
「自分より強い囲碁のプログラムをつくりたい」でした。
今思うと、情報科学科に入るべきだったのですが、
当時はあんまりよくわかっていなかったのです。

当時、ぼくが知っていた人工知能や機械学習と現在のそれはもう
同じものとは思えないほどにレベルが違います。

大学一年生のときに一番強かった囲碁のソフトは寝てても勝てました。
今、フリーで落ちている囲碁のソフトにぼくは負けます。
AlphaGo にプロ棋士が完敗し、大きなニュースになりました。

最後の砦、囲碁が負けていろいろな意見が聞こえてきます。

なんというか、ぼくは結構ワクワクしている派なのです。

囲碁では伝統的に"正しい"と信じられていることがたくさんありました。
でもそれは、必ずしも、いつも正しいとは限らないとAI が教えてくれました。

なんか自由だなと思ったのです。

「こうするべき」

それは、大抵は正しいかもしれない。
けど
盤上で人々が2000年以上も研究し信じていた「こうするべき」は
そうとも限らなかった。

きっと「こうするべき」は安全。
でも、そうとも限らない、なら
やりたいように、やってみてもいいんじゃないか。

そしたら、もしかしたら。

むかしの目標が終わってしまったのをみて、
いま、何をするべきかいろいろ考えているのでした。