2023年3月31日金曜日

朱夏時代

三崎にマグロを食べに行った。
どうやら桜の名所らしく、たくさんの桜の木。
どれも早咲きとのことで早春にも関わらず、すでに桜はほとんど散っていた。
期間を決めてしまったのか、駅前では「桜まつり」。
閑散としていたが、出店が葉桜の下で焼きとうもろこしやマグロ、そしてお酒を売っていた。

「先週までは大賑わいだったんだけどね!!」
陽気なおばちゃんに惹かれて、ポキ丼屋に入る。
三崎のマグロをハワイアンにして食べた。
ハワイと三崎の妙なミスマッチが、閑散とお祭りのミスマッチと合っていた。

特に目的地も決めない旅(いつもどおり)。
少し距離があったが港まで行ってみる。
港では多様なマグロが売っていた。
尾の身、しっぽが売っていたので買ってみた。
家でステーキにして食べたが、新感覚でよかった。

港のさらに奥に小さな島があった。自転車を借りて行ってみる。
休憩で立ち寄ったカフェに白黒時代の俳優がびっしり。
映画好きマスターがひたすら喋り続ける店だった。

島からの帰りに渡し船に乗った。
「三崎は北原白秋とゆかりがあるんですよ。白秋の名前の由来をお話ししても?」
静かな調子で話しかけてきた。
「中国の古事では、人生を春夏秋冬に分けていて、春夏秋冬それぞれに色があるそうです。春の色はわかりますか?」
何人かいた乗客に尋ねてきた。しばし経って誰かが
「青ですか?青春?」
「その通りです。実は、同様に夏、秋、冬にも色があります。夏は赤、朱色で朱夏。そして、秋は白、白秋です。北原白秋の名前はここからきているそうです。そして冬は黒,玄冬と言います。現代の年齢だと、若く青々とした青春が25歳くらいまで、その後人生が最も輝くとされる朱夏が60歳くらいまでとされているようです。そしてその後の終末期、冬の時代への向かう秋が75歳くらいまで」

みんなが感心している空気を感じると
「あ、いや私もこないだラジオでこの話を聞いたんですけど」
とおちゃらける。
「人生の折り返しをすぎたところを白秋という。白秋時代は青春、朱夏時代のようなエネルギーはないが、重ねた年輪による成熟した精神と、まだある程度自由に動く身体がある人生における実りの時代である。北原白秋は、白秋時代のような詩や物語を作りたいと、白秋と名乗ったそうです」

良いお話しだった。
朱夏時代、人生がもっとも燃える時代を僕はいま、生きている。
僕はマグロも赤身が好きである。

朱夏時代の1ページ。